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2018年国際会議に向けた勉強会 大久保幸夫氏、濱口桂一郎氏にご講演いただきました


2016年3月15日に濱口桂一郎先生、大久保幸夫先生の2人の講師をお招きして、エルメス会の勉強会を開催 しました。濱口先生は労働省、欧州連合日本政府代表部一等書記官などを経て、現在は労働政策研究・研修機構の主席統括研究員。近著の『働く女子の運命』(文春新書)が大変話題になっています。大久保幸夫先 生は一橋大学卒業後にリクルートに入社され、1999年にリクルートワークス研究所を創設、以後、同研究所 の所長として多方面で活躍されています。

* まず、濱口先生から、「日本型雇用と女子の運命」という演題で近著『働く女子の運命』に沿ったお話を していただきました。ポイントは以下です。

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・欧米と日本が雇用機会均等など男女平等に乗り出した時期は大きな差はなく、法律の条文上も差はない。 しかし日本は世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で101位(2015年)と低迷している。その差 は、雇用システムの違い。欧米の社会は仕事に人をつける「ジョブ型社会」であるのに対して、日本は会社 に入社させてから、人に仕事をつける「メンバーシップ型社会」。

・日本の労働市場では戦後に高等教育を受ける女性がでてきたにもかかわらず、会社の中にこれら女性の受 け皿がなく、サラリーマン男性と、短期間で結婚退社することを想定されたOL(短大・高卒)という二つ しかなかった。これを裏から支えていたのが、日本的な賃金観であり、戦前の皇国勤労観の流れをひく「女 房子供を養う賃金」は、戦後の電産型賃金体系に受け継がれた。1960年代に一時、「職務給」が議論された が結局、導入されなかった。

・世界的な流れを受けて日本でも雇用機会均等が検討され始めたとき、経営側の考え方は「日本型雇用に悪 影響を及ぼさないような男女平等ならいい」というものだった。それで、1986年施行の均等法対策として、 コース別雇用管理になった。男はそのまま総合職、女はそのまま一般職、ただし、ごくわずかの女性総合職 をつくった。

・ニート、フリーターなどをめぐる格差社会論で必ず言及される、1995年の日経連の『新時代の「日本的経 営」』により、男性はすべて総合職、というあり方に変更をせまられるようになった。この頃から、本格的 に女性総合職の活用が始まり、一方、育児休業法もできた。「バリキャリ」と「マミートラック」の間で、 また、育休明けの時短社員を多くかかえた職場で、亀裂や不都合が生じるようになった。なぜか? 総合職 がモデルとした男性正社員が、労働時間無限定がデフォルトルールだったから。無限定の男性正社員モデル を原則にしたまま、例外としてマミートラックをつくることでしのごうとしたため、マミートラックが定員 オーバーになり破綻した。

・「35歳で管理職コースを行く人とずっと平社員の人に分けよ」という説(海老原嗣生氏の説)があるが、 これは、若者男性と中高年男性の二元連立方程式の解としてはよいが、もう一つの変数として女性をいれた 三元連立方程式の解としてはどうなのか? 35歳でなくもっと早い選抜にしないと、「マタニティの罠」に 落ちてしまいかねない。

* 続く大久保先生の講演では、「均等法30年、女性活躍法、さて次の10年は?」というテーマのもと、エル メス会からの事前の質問事項に答えるかたちでお話ししていただきました。以下がそのポイントです。

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・入社して最初の上司が女性、その後、秘書的にサポートしたのがリクルート社長になる河野栄子氏。リク ルートワークス研究所の「works」という雑誌を一緒に立ち上げた仲間が、iモードの産みの親である松永真 理氏。今、リクルートワークス研究所の研究員は半分以上女性であり、これまでに出産・育児している女性 部下を多数もってきた。当たり前に女性と一緒に働いてきたので、他の男性がなぜそれができないのか、逆 に不思議に思う。

・ダイバーシティの推進や女性活躍では、管理職目標(女性管理職比率)の設定をする、採用を増やす、育 成プロセスを変える、メンターをつけるなど様々なことをやってきたが、その後、焦点は「いかに長時間労 働をなくすか」に移った。日本の会社では、管理職やホワイトカラーの生産性が低く、それを改善しないと 長時間労働が解消しない。時短では埒があかないので、いきなりジャンプしようということで、リクルート では全社員がリモートワークに突入した。上限日数を決めない、一般事務職、契約社員、派遣も含めてのリ モートワーク。本格導入からまだ半年くらいだが、会社の風景ががらっと変わった。会社に来て仕事をして いる人は半分くらい。リモートワークでは時間の使い方が最善になる。ただ、敷居は自己管理できるか。会 社からみてサボるかどうかではない。自己管理できるようになることが、結果的に生産性を上げ、長時間労 働の習慣を変えることになる。

・女性や、男性でも長時間労働できない人などの活躍を困難にしているのは、何が阻害要因か。結論とし て、「管理職のマネジメントが下手」ということに行き着いた。なぜか。この20年くらいの間に、課長がみな、プレイングマネージャーになってしまった。組織の業績を、自分個人の業績を上げることによってまかなおうとしている。それでは、いつまでたっても人を使える人にならない。

・持っている阻害要因は一人一人ちがう。とくに育児をしながら働いている人が何を悩んでいるのか。「働 くマザーのストレス調査」(リクルートワークス研究所)で、ワーキングマザーとワーキングファザーを比 較してみた。ワーキングファザーのストレスはほぼ仕事であるのに対し、ワーキングマザーのストレスは、 仕事とプライベートが半々であり、ストレスレベルはマザーの方が高い。残念な結果になったのは、「夫の 態度ストレス」。ただ、そのような夫と、たいへん理解があって家事・育児をシェアしてくれるという夫と、 きれいに二分される。

・リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2014」で、男性管理職と女性管理職の違いが明らか になった。「時間あたり労働密度」では、男性よりも女性の方が、「もうこれ以上は働けないほど働いてい る」。「成長実感」も、男性よりも女性が持っている。ところが「プロ段階」では、男性の方が、自分はプ ロとしてのレベルが高いと思っている人が多い。「職務の大きさ」では、女性は「業務改善レベル」の仕事 をしていると思っている人が多く、男性は「経営変革レベル」の重要な仕事をしていると思っている人が多 い。頑張っているのに、突き抜きれないという女性管理職の姿が、この調査に出ている。

・女性はある程度、自分の得意領域をつくって専門性を積み上げていくが、途中でエンジンブレーキがかか る感じがする。もっと突き抜けると、男性以上に女性の方が、社会的に舞台が用意され、そうすると顔も広 がって、サポートが得られる可能性が高い。

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講演後には、山下裕子・一橋大学大学院商学研究科准教授のモデレートにより、ディスカッションが行わ れました。女性のリーダーシップのあり方として、「サーバント・リーダーシップ」(裏方にまわって自分 の回りの人たちをもり立てて、下から支えるスタイル)の是非、生産性を上げていくことへのハードル(日 本に根強い平等主義的な「ガンバリズム」の壁、個人の生産性と会社自体のガバナンスの不整合)などが討 議されました。最後に大久保先生から、「2割の会社は変わろうとしている。女性もそうした企業の男性、 変化を先どりしている男性とパートナーシップを組むとよい」というアドバイスをいただきました。 クロージングスピーチでは、クリスティーナ・アメージャン・一橋大学大学院商学研究科教授が、「He for She」 (http://www.heforshe.org/en)という世界的なムーブメントや、教授自身がパネリストを務めたロン ドンでのジェンダー・シンポジウムの例を挙げながら、日本の私たちも「何のためにやるのか」を明確にしたほうがよい、と述べました。また、この日の議論の先にあるテーマとして、「新しい働き方を通して新し い価値を創り出すこと」を提示し、「新しい働き方」「新しいモデル」「新しい価値」を考える必要性を強 調して締めくくりました。

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