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エルメス国際会議(2018年11月11日)報告

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2018年11月11日(日)午後に、一橋講堂中会議場(東京都・千代田区)にて、一橋エルメス会国際会議が開催されました。おかげさまで、103名の方にご来場いただき(登壇者・実行委員含む)、大盛況のうちに終えることができました。
会議の全体タイトルは、「女性の智慧が創る新しいキャプテンズ・オブ・インダストリー」(New Captains of Industry: Women's Wisdom, Leadership and Breakthrough)。
公益財団法人野村財団の助成(「女性が輝く社会の実現」をテーマにした講演会等助成)を受けて、4年をかけて準備を進めてきたものです。以下に、その抄録、スライド、およびビデオを掲載します(登壇者の敬称略)。

 

オープニング・リマークス   
後藤愛(国際交流基金アジアセンター文化事業第2チーム上級主任)

【抄録】
一橋大学卒業生として、この会議を楽しみにしていた。私がエルメス会に関わった

きっかけは、2013年に国際交流基金のジャカルタ日本文化センターで、初の子連れ

新興国赴任者として働いていた時に、ジャカルタを訪問していた山下先生と会った

こと。その後、HQのインタビューを受け、一橋で講演もさせて頂いた。

それらを通して、山下先生やエルメス会の活動に感銘を受け、「ガラスの天井」の存在や日本社会における女性の活躍の場が少ないことに気付かされた。たとえば、インドネシアには如水会(一橋卒業生による同窓会組織)ジャカルタ支部の会員が当時70人ほどいたが、女性は私ただ一人だった。全体の1.5%に満たない。このことを通じて私は、自分自身のキャリアだけでなく、高等教育を受けた女性全体のキャリア、人生、成功について考えるようになった。

エルメス会について簡単に紹介したい。エルメス会は、女性の智慧を生かして新しいキャプテンズ・オブ・インダストリーを作り上げるべく一橋の女性卒業生たちによって設立された。HQに登場した女性卒業生たちの多くから、働く女性の間で情報共有や意見交換をする場が必要だという声が上がったことがきっかけ。

2013年には、山下先生、クリス先生、海部さんが中心となり、エルメス会の第一回シンポジウムを開催。その後も活動を続け、現在は卒業生から現役の学生まで540人の会員がいる。

一橋の女性卒業生と世界中の女性の同窓会組織を繋ぎ、専門知識を持つ革新的な女性たちが社会でリーダーシップを取るよう奨励するエルメス会の活動は、野村財団の助成を受け、さらにネットワーキングや新しいビジョンの発信に取り組んでいる。

ちなみにエルメスという会の名前の由来は、美しいスカーフを製造する会社ではなく、ギリシャ神話に登場する商業の神で、一橋大学のシンボルから来ている。

本日の会議のテーマは「女性の智慧が創る新しいキャプテンズ・オブ・インダストリー」である。ご存知のように、キャプテンズ・オブ・インダストリーとは、19世紀のスコットランドの哲学者トーマス・カーライルが著書「過去と現在」の中で用いた言葉だ。一橋大学はこの言葉を校是として、創立時から経済界におけるリーダーを育てることに重きを置いてきた。

会議を開催するにあたり、私たちは単に有名人を呼ぶといったこと以上に意義のあるものにしたいという思いから、自分たちならではの企画として二つの柱を考えた。一つは、現実を把握するために卒業生を対象としたキャリア調査を行うこと。もう一つは、比較対象として、海外からパネリストを招待することである。

会議は4つのパートから成る。まず、山下先生が問題の全体像について説明し、浅野さんがキャリア調査について報告。続いて、一橋の現役生による調査の結果発表。最後に、ケイティ・メイザーさんとフラン・マイヤーさん、そして江川雅子先生によるパネルディスカッションを海部さんがモデレートし、クリス先生が締めくくる。

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第一部
基調講演「一橋の女性たちのマドルスルー」(How do we muddle through?)
山下裕子(一橋大学大学院経営管理研究科教授)

【抄録】

今日の会議のキーワードは3つ。

①女性の智慧…15年間に亘る「一橋の女性たち」のインタビューを振り返る。

②マドルスルー…我々を取り巻く状況を変えるために行ってきたエルメス会の

活動を振り返る。

③キャプテンズ・オブ・インダストリー…女性の智慧やマドルスルーとどのよ

うに関わるのか明らかにする。

女性の智慧について
広報誌HQが創刊した際、女性にフォーカスしようと思った。なぜなら、男女問わず若い学生には、マドルスルーをして道を開いてきた女性の生き方が参考になるのではないかと思った。また、「偉い人」の話ではなく、「隣の席に座っていた人」の話を聞きたいと考えた。(第1回~第3回の紹介 スライド2頁)

マドルスルーについて
Charles Lindblomの言葉(1959年)。
従前は、状況等を全て把握した上で手段、目的、政策等を作るものと考えられてきたが、不確実な世の中においてはそのようなことできないため、その時その時の状況で対応しなければならないという考え方。
Root and Branch(スライド4頁)。自分が手にすることが出来る手段に注目すべきである。
マドルスルーという古い言葉が再度注目されている理由は、Effectuation Theoryという起業家の理論がマドルスルーの理論を利用しているからである。
Effectuation Theory:Root型ではなく、自らが有している手段に注目し、何ができるか考える。また、当初目的は分からなくても、進めていくうちに目的が共有していく。何を叶えたいのかを想像しながら行っていく。

 

「一橋の女性たち」にマドルスルーの極意を学ぶ
第4回から第57回の紹介(スライド7~12頁)。

 

Principle of Effectuation(スライド13頁)
1) Pilot in the Plane:コントロールできることに集中
2) Bird in hand:持てるものから出発しよう
3) Affordable loss:許容可能なロスは?
4) Lemonade Principles:失敗を成功に変えよう
5) Crazy Quilt:仲間を増やそう
これに加え、一橋の女性たちをインタビューして大切だと思ったことは、以下の3つである。
6) 人を育てる
7) 心の中の、“価値”の声を聴く、
8) 社会に貢献する
上記1)〜8)の中で女性の成長に最も大切なものは、1コントロールできることに集中すること(Take Control)だと考える。Take Controlには2つの意味があり、1つ目は自分がコントロールできることに集中する、2つ目はコントロールできる範囲を広げる、という意味である。
この点において参考になるのが石原一子氏(♯19〔20号〕)のインタビューであり、同氏はコントロールできる範囲をどうやって広げるか考えるべきだと語っていた(スライド14頁)。

 

Women’s Leadership
・一橋の女性は一人一人で見ると素晴らしいのになぜ集合体・社会としてジェンダーギャップがあるのか、また、日本と他の先進国との間になぜ大きな差があるのかについて疑問に思い、その理由を考えてみた。
(1)70年代先進国の成長の限界(スライド17頁)
教育の面で見れば、オックスフォード大学が共学になったのは70年代である(一橋大学は戦後)。しかし、家族を維持する費用が増大したことにより、欧米では女性が働かざるを得ない状況になったのではないかと考えられる。
(2)80年代の日本 円高→バブル→“女子大生”(スライド18頁)
男女雇用機会均等法が出来たが、バブルが女性の社会進出を妨げたように思う。
バブルで女性の進学率は上がったが、教養としての教育の色が濃かったようで、キャリアには結び付かなかったのではないか。
(3)90年代 ガラパゴス化(スライド19頁)
80年代の反動で、90年代に至り、女性も働くために勉強していくようになった。一般職も減り、女子大も減っていった。
男女の大学進学率を見ると、女子大が90年代に減ったことが見て取れる(スライド20頁)。
一橋大学の女子学生の比率は、約3割で頭打ちとなっている(スライド21頁)。

 

キャプテンズ・オブ・インダストリー
キャプテンズ・オブ・インダストリーという表現が生まれたのは、19世紀前半のイギリスであり、貧しい民が、貴族によって庇護されることを想定していた保守主義にとって代わり、自由競争を提唱するリベラリズムに大きく舵がとられた時代である。貧民法と、穀物法が撤廃され、農村から都市へ農民が流入し都市に大きな貧困層が形成された。トーマス・カーライルは、貴族階層が崩壊した今、社会的な問題に責任をもって取り組むのは、キャプテンズ・オブ・インダストリーであるべきだし、それができるのはもはや彼らしかいないと主張したのである。彼らは、ノーブルな出身ではなく、工場のトップとして現場でマドルスルーする人々であり、激動する社会で解を求めてマドルスルーしていた。
私たちは、社会的な課題を解決するにはブレークスルーが必要だという考えを共有するために、エルメス会を立ち上げた。
エルメス会の活動の紹介(スライド26頁)。私たちが、マドル(模索)してはいるけれども、まだスルーしていない(解決に至っていない)、と感じるとき、仲間と連帯して刺激を受け、パワーアップして、ブレークスルーする必要がある。
企業:女性はどの価値付与に貢献できるのか(スライド27頁)。
→女性はヨコのマネジメントが得意であるが、評価されづらい。この評価方法をいかにアップデートするのかが課題である。
・The New Captains of Industryとは(スライド30頁)。
・最初に目標ありき、で人を引っ張るのではなく、混沌とした社会で行動しながら、目標を想像していけるリーダーである。一人で想像するのではなく、仲間を見つけて目的を共有していくことが大切である。人を育てる、自分の内なる声を聴く、社会に貢献するという、一橋の女性たちの智慧は、マドルスルーを仲間たちと根気強くやり遂げる力を与える中心から湧き出してくるものである。新しいキャプテンズ・オブ・インダストリーとは、そのように、社会的な課題に、仲間とともに取り組んでいける人であり、それは、女性が得意なことなのではないかと思う。トーマスカーライルがいうように、「キャプテンズ・オブ・インダストリーとは、真のファイターである。カオスに立ち向かうファイターなのだ。」

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講演「一橋卒業後のライフ・キャリアにみる男女格差」(After Hitotsubashi University)
浅野浩美(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
雇用推進・研究部長)

 

 

 

 

【抄録】
日本では、働く女性は増えている(スライド2頁)。女性管理職も以前に比べ、

増えてきた(スライド3頁)。しかし、M字カーブは依然としてあり、他の先進国と

比べると管理職に占める女性の割合は低い(スライド4頁)。

 

一橋大学卒業後の女性はどうか?(スライド5頁)
→本調査実施。

 

調査方法:
ウェブ上にページを設け、Facebookや同窓会報誌等で呼びかけ、525名に回答を得たものである(このため、そのまま一般化することまではできないので注意が必要)。また、その中から、13名の卒業生にインタビュー調査を行った。回答者は、男性が226名、女性が298名、その他1名。女性の回答者は若い年代が多い。分析は主に割合で行っている。

 

仕事:卒業後すぐとその後の状況(スライド6頁)
・多くが大企業に勤め、業種的には、男性は金融、メーカー、商社、女性はメーカー、金融、マスコミ、ソフトウエアの順となっている(報告書13頁)。
・卒業後1年後の仕事には、男女の差がなく6~7割が満足している。
・転職経験者は、男性約4割、女性約5割とかなり高い。
・転職・起業の理由を見ると、男女ともにやりたい仕事が見つかったという回答が最多。次いで、男性は、より賃金・地位の高い仕事が見つかったという回答が多く、女性は勤務時間面を改善したいが多い(報告書15頁)。
・ブランク経験者の割合にはかなり差がある。

 

仕事:現在の状況①(スライド7頁)
・一橋の女性は、就業率が約90パーセントで、かなり高い。
・30年代後半は凹んでいるところがある。また、正社員の率は年代が上がるにつれ少しずつ下がっている。
・また、凹みのあと、パートでなく、自営の割合が増えており、かなり割合を占めている。

 

仕事:現在の状況②(スライド8頁)
・女性の課長クラス以上の割合は、年代をならして34.8パーセントであり、女性全体に比べ、高い。
・男女を比べると、40代から差が開いている。

 

仕事:現在の状況③(スライド9頁)
・収入についても男女差がある。

 

家族(スライド10頁)
・家族についてみると、結婚しているか否かは男女で差がないが、子どもの数には差がある。男性は半数以上が子ども2人以上であるのに対し、女性では子ども1人が最多で4割強、子ども0人も3割近い。
・ちなみに、男性の配偶者は、フルタイム3割弱、パートタイム2割弱、無職4割強である

 

仕事と家族:違いはどこから?①(スライド11頁)
・仕事も家庭も男女で違いがあるが、違いがどこから来ているか見てみたい。
・仕事と家庭のバランスについての考え方をみると、結婚をしていないまたは子どもがいない人では、むしろ女性の方が仕事が優先する傾向にあるくらいで、男女での違いはほとんどない。
・しかし、子どもがいる場合は、男女でかなり異なる。女性では、「どちらかと言えば仕事以外の生活を優先」が増えるのに対し、男性では、そうではなく、むしろ、子ども2人になると、仕事優先が増える。

仕事と家族:違いはどこから?②(スライド12頁)
・上の職位を目指すかどうかについては、女性では上の職位を「目指したいとは思うが、躊躇するところもある」の割合が大きい。
・年代別に見て気づくのは、①年代が上がると、上の職位を目指す割合が減る、②「目指したいと思うが、躊躇するところもある」の割合が最も高いのは女性の20代であること。

 

仕事と家族:違いはどこから?③(スライド13頁)
・家事・育児の負担割合については、同じ質問をしているのに、男女でグラフの色が全く異なる。男性は1~3割、女性は7~9割が多い。
・男性の配偶者の中には働いていない人もいるので一概には比べられないが、共働きにもかかわらず、女性は家事・育児を7~9割負担している。
・職位と実力については、男女とも「実力相応」と答えているが、女性は、残業・転勤ができないなど制約的な理由を挙げており、、実力相応と言いながら言い訳しているようにも捉えられる。

 

仕事と家族:違いはどこから?④(スライド14頁)
・力を伸ばそうと努力している度合いをみると、男性の方が力を伸ばす経験をしている者の割合が高い。横断・新規プロジェクトなどは、企業から機会を与えられることが多いのでしかたがないところもあるかもしれないし、それぞれに理由があるのかもしれないが、社外専門家との交流などでも差があることは事実。
・若い年代でも男女差がある。

 

先輩からのメッセージの紹介(スライド15~18頁)

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山下・浅野講演への質疑応答

(1)山下への質問と回答
Q:海外でのMBA修了後、帰国したが、伝統的な思考を持つ周囲とのギャップ

に苦しんでいる。
A:社外に仲間を探すことを勧める。貴女のキャリアの価値を正当に理解できる

集団が必ずいるはずです!
Q:一橋大学の女子が頭打ちなのは、入試の時点で操作をしているからか。
A:操作は一切していないと断言できる。認識の差、社会の壁かもしれないが、

そうであるとすればそちらの方が深刻かもしれない。
Q:マドルスルーの理論は、男性も使えるのでは。
A:そのとおりである。マドルスルーの原則はユニバーサルなものだが、本日は女性のマドルスルーに焦点を当てている。何にマドルスルーするかは、人様々だが女性の方が共通部分が多く連帯しやすいのではないか。
Q:マドルスルーを恐れる若い世代へのメッセージは、男女ともにブレークスルーできると信じることか。
A:マドルスルーは苦しいというイメージがあるが、人生はそんなものと思うしかない。世界は混とんとしており、世界が劇的に変化していく中で、マドルスルーは当たり前だと、肝に据えるしかない。マドルスルーを楽しむことが大切である。
Q:ヨコのマネジメントを評価する仕組みがアップデートされないのはなぜないのか。
A:専門的なアドバイスに関しては個別にご連絡を(笑)。伝統的な経営学では、人をコントロールすることが中心だったが、今は、イシューの解決が中心。過去に成功体験があるほど、変革が難しいからだと思う。
Q:Principle of Effectuationは、男性に教えた方が良いのでは。
A:男性の理解が深まるならば嬉しい。本日Principle of Effectuationを議論したのは、女性たちが不満を言うだけではなく、主体的になって問題に取り組んだらいいと思うからです。

 

(2)浅野への質問と回答
Q:離婚率は。
A:報告書22頁に載せているが、回答をみる限りでは、特別高いということはない。
Q:知恵の共有と経験の蓄積はどうしたらよいのか。
A:本日の国際会議のような場で議論することが、一つのきっかけになるのではないか。
Q:一橋大学を出ているのに女性が自信満々と言えないのはなぜか。
A:日本だけではなく、国際的にみても、女性の方が確実だと思わないとできると言わない傾向がある。少しでもできそうだと思ったら、「できます」と答えるのが良いかもしれない。
Q:今後導入すると良い制度はあるか。
A:ポジティブ・アクションのように、まずはやってみてもらうのが有効だと思う。
Q:ワークライフバランスを気にしていて、世界と渡り合っていけるのか。
A:仕事をしないと力が付かないというところがあるのはそのとおり。その分勉強をするしかないのでは。
Q:非常に優秀な女性の部下と仕事をしているが、女性は上司のどこを見ているのか。
A:女性によって違うと思うが、自分の力や考えをよく見て認めてくれる上司かどうかは見ているのではないか。

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「一橋現役学生におけるワークライフバランス調査・報告」如水エル(一橋女子学生の会) 
発表者:一橋大学法学部2年 中村美樹/一橋大学社会学部2年 武田瑠奈

【抄録】

調査を行うにあたり立てた仮説
・一橋生の多くは共働き志向であるが、家事育児への意欲は女子が高く、

男子が低い(スライド2頁)。

 

調査方法
・ウェブ上にページを設け、Twitter・Facebook等SNSのほか、私的な

呼びかけを行い、191人から回答を得た(女子97人、男子94人)。

 

ワークライフバランス(スライド4頁)
・男女ともに仕事以外を優先したいというデータになった。

 

共働きをしたいか(スライド5頁)
・男女ともに約7~8割が共働きを望んでいる。

 

配偶者の転勤(スライド6頁)
・女子は配偶者には自分のキャリアを優先してほしいと望む傾向が強く、男子は配偶者には自分に合わせてほしいと望む傾向が強い。他方で、配偶者が転勤することになった場合、仕事を辞めてついていきたいと回答した割合は、男子が女子を上回ったので、一概には評価できない。
・配偶者の転勤に仕事を辞めずについていきたい、自分の転勤に配偶者には仕事を辞めずについてきてもらいたい、という回答の割合が多いことから、転勤支援の重要性がうかがわれる。

 

自分と配偶者の収入と働き方(スライド7頁)
・女子は、自分の収入にかかわらず、配偶者に働き続けてほしいと考えている。
・女子は、配偶者の収入によって、働き方を変えたいと考えている。

 

なぜ共働きをしたくないのか(スライド8頁)
・家庭と仕事の両立は現実的に厳しいという回答が最多。

 

仕事と家庭の両立のために何を利用するか(スライド9頁)
・女子は、家庭よりも外部の力を利用したいと考えている。

 

共働きをしやすくするためには(スライド10頁)
・男女の回答にほとんど差がなく、育休・時短勤務制度や保育園を利用しやすくするといった制度面での改善が、意識改革より重要だと考えている。

 

昇進への意欲(スライド11頁)
・男女ともに8割程度が上の職位を「目指したいと思う」または「目指したいと思うが、躊躇もある」と回答しており、両者の合計は女子の方が高い。しかし、女子は上の職位を目指すことにためらいを感じていることが分かった。内心では上の職位を目指したいと思っていても、外部に表明できない、または積極的になれないので、男子が出世していくのではないかと思われる。これが管理職の割合の差の原因ではないか。

自分の力を伸ばすために何に進んで取り組みたいか(スライド12頁)
・有意な差はないが、資格の取得については、女子の方が意欲的である。資格を有していると、再就職に有利であるし、転勤があっても対応できると考えているのではないか。

 

まとめ(スライド13頁)
・共働きへの意欲や収入と働き方の考え方など、男女の意識の面における差がみられる部分もあるが、その差はあまり大きくない。
→意識面での改革よりも、転勤支援や育休支援など制度面の充実の方が重要ではないか。
・女子の方が、“男子は家事育児より仕事を優先したいもの”というイメージを持っているのではないか。女子は、女性が家事・育児を優先しなければならないと考えており、したがって外部利用などに興味が深いのではないか。
→男女間で意見を交換できる場等の提供が有効ではないか。

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第2部
パネルディスカッション「海外の仲間と考える:マドルスルーからブレイクスルーへ」(Global panel: From Muddle Through to Breakthrough)
パネリスト:  
ケイティ・メイザー(Katie Mather, カーギル ヨーロッパ・中東・アフリカ HRディレクター)
フラン・マイヤー(Fran Maier, BabyQuip創業者・CEO)
江川雅子(一橋大学大学院経営管理研究科教授)
モデレーター:
海部美知(ENOTECH Consulting CEO)

 

【抄録】
海部:エルメス会の言い出しっぺの一人で、現在はシリコンバレーで

コンサルタントをしている。第1部で一橋の女性、男性がどのように

マドルスルーしてきたかというのを見てきた。私は、エルメスの最初

の会議の時にGJPという言葉を作った。Gは外資、Jは自営、Pはプロ

フェショナル。実際にはこれにK、公務員というのを加えて、一種の

ニッチのような仕事で何とか頑張ってやってきているというのが実態

だという話をした。本来で言えば企業の営業職や管理部門まで広がってほしい。
その中で、どうしたら本来こうあるべきという姿にブレイクスルーできるのか、海外のゲストの状況を参考に考えて行きたい。
今回のパネリストは、良い具合に三つの立場を代表していると江川さんが指摘した。ジェンダーギャップ指数で見ると、イギリスは世界15位、アメリカは49位、日本は114位で、上位と真ん中と下位に分かれている。それでは自己紹介から。

ケイティ:言葉で説明するよりも写真の方が面白いと思って持参した。まず、私にとって一番大切な家族について。四人の息子と夫がいる。息子の一人には知的障害があり、本当に大切な存在。家族の在り方にとってとても重要。
オックスフォード大学時代に夫と出会った。オックスフォードで法律を学んだ後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでHRを専攻。一番下に並んでいる国旗は私の所縁の国々。イギリスは私の出身地で、フランスは幼少期に住んでいた。夫が働いていたカリビアンのケイマン諸島で結婚し、ここ17年はスイスに住んでいる。兄弟は20年間アメリカ暮らし。三つの国の子どもを支援しており、今回日本に来た。
キャリアのほとんどは多国籍企業。ずっと人事に関わってきた。どの企業でもやってきたのは、女性のネットワークを支援すること。
若い頃の自分にアドバイスをするとすれば、パートナーを賢く選ぶこと。

フラン:海部さんとスタンフォードで同期。初期のキャリアはテクノロジー関連。次はインターネットに関わる4つのベンチャー。最後のベンチャーを退職して今のベンチャーを立ち上げるまでの4年間はエアビーアンドビーのホストなどをしており、その体験が今の赤ちゃん用品レンタルサービス会社を始めるきっかけになった。
キャリアを通してずっと女性のための商品や女性の成功に情熱を注いできた。
息子が二人おり、1人は私の会社で働いている。二人が幼い頃ずっと仕事をしていたが、良い関係を築いている。
現在、日本でも欧米でも大きなかい離があると感じる。女性は役員としても起業家としても能力があるのに機会を与えられていない。私は5つの会社を立ち上げた。もっと成功していて良いはず。でも、男性や男性が起業した会社の方により多くの資金が流れる。成功した女性、資産家の女性が少ないので、女性や女性のビジネスへの投資も十分でない。
もう一つは、女性役員の問題。15から20パーセントしかいない。もっと声を上げる時だ。

江川:東京生まれ東京育ち。17歳の時に交換留学生としてカリフォルニアの人口5,000人の町に1年滞在。この経験をきっかけに国際関係に関心を持ち、東大に進学。1980年に卒業した時は男女雇用機会均等法施行前だったので、日本企業は女性を一般職でしか採用しなかったため、シティバンクに就職。4年後、ハーバード・ビジネス・スクールへ留学した。
修了後、ニューヨークのソロモンブラザーズで2年間働き、1988年に帰国。引き続き、M&Aや資金調達に関わり、1993年にS.G.ウォーバーグに移って2001年まで勤務。投資銀行業界で15年働いたことになる。
その頃、母校のハーバード・ビジネス・スクールが日本でリサーチセンターを設立することになり、初代エグゼクティブ・ディレクターとしてセンターを立ち上げ、日本企業研究に携わった。
2009年に母校の東大の新しい総長の依頼を受け、女性初の理事に就任、大学経営に携わった。男性中心の大学だったので、大きな驚きだった。
私が翻訳した「ハーバードの女たち」がHQの「一橋の女性たち」のヒントになったと聞いていたので、山下先生と知り合えたのは嬉しかった。
(スライド)右側の表は、一橋や東大を受験する女性が少ないことを示している。23年たっても女性を取り巻く状況が変わらないことに苛立ちを感じる。

海部:皆さんがどのようにマドルスルーしてきたか伺いたい。フランはマドルスルーという言葉が好きでない?

 

フラン:マドルスルーを強いられることもあるが、私はマーチスルーと言いたい。どう進んだら良いか分からない時もあったが、とにかく一歩踏み出した。最初の起業をした時は、大企業で良い仕事を与えられていたが、インターネットの創成期で、ビジネススクール時代の友人から誘われた時、躊躇しなかった。

ケイティ:仕事をするにあたって、常に良い実績を残したかったし、重要な仕事をしたいと思っていた。マドルスルーの経験と言えば、コダックにいた時、組織で一番地位が高かった2、3人の女性のうちの一人で、ヨーロッパのHRのトップを務め、仕事は充実していたが、障害のある息子のことをまったく考えていない自分に気付いた。そこで上司に、今はトップでなくナンバー2になりたいと伝えたところ、力になりたいと言ってくれた。先が見えない時期ではあったが、家族のためにもキャリアのためにもとてもうまくいったと思う。

海部:オックスフォードが共学になったのはかなり最近だが、それよりずっと前から共学の日本よりずっと進んでいる。なぜだと思うか。

 

江川:海外の主要な大学は学生の半分が女性だが、一橋や東大は20パーセント。入試は公正なはずなので、受験していないということ。日本社会の問題を象徴している。
また、働く女性の数が増えているにもかかわらず、女性の収入は男性より26パーセントも少ない。パートタイムで働く女性が多いからという理由もあるが、より大きいのは女性の給与が男性より少なく、昇進も遅いから。
問題は長時間労働。このグラフ(スライド)は各国で男性と女性が育児にどの位費やしているかを示しているが、日本の男性は1日7分。これは長時間労働のせいであり、是正しなければいけない。学生の調査では、もっとプライベートの時間が欲しいという結果が出たので、本当に社会全体として変わらなければ。

 

海部:女性ネットワークに力を入れるようになった動機は?

 

ケイティ:動機は、多くの女性が新しい仕事に挑戦せず、自信がないように見えたこと。そこで、女性をサポートするネットワークを作った。ここでは、総合職の女性だけでなく、秘書などの仕事をする女性にもリーダーとしての経験をしてもらうべく、イベントの企画などを仕切ってもらった。
これらの活動が直接結果に繋がったケースもあって嬉しい。以前だったら挑戦していなかったであろう仕事に手を挙げて採用された人が二人いた。それ以外にも、ネットワークを通して自信をつけた女性たちがたくさんいる。

 

海部:私がエルメス会を始めようと考えたのは、フランに働く女性について話し合うネットワーキングイベントに誘われたことがきっかけだったが、フランはその後女性役員を増やす活動へと軸足を移した。なぜ女性役員か。

 

フラン:キャリアを重ねる中で取締役会の重要性を痛感するようになった。その企業の文化や方向性を決めるのは常にトップだ。取引先や社員の声を代表する取締役会に女性がいないのはおかしい。シリコンバレーでも30パーセントの企業には女性役員がいない。活動を通して支え合った結果、個々の成果は出てきたが、まだまだ不十分。

海部:女性役員の割合でも、トップはヨーロッパで、アメリカは追い付こうとしていて、日本はかなり悪い状況。

 

江川:トップはノルウェーで44パーセント、日本は最下位で4パーセント。日本がジェンダーギャップ指数で低い理由は、健康や教育の点は高いのに、政治経済分野への女性の参加が低いから。
元々日本企業では社外取締役はほとんどいなかったが、2015年から東証上場企業は二人以上の社外取締役を任命しなくてはいけなくなった。ダイバーシティも求められた結果、女性取締役は増加し、私自身も3社で社外取締役を務めている。
どうやったら女性役員を増やせるか。一つは、選考基準を男性と同じにすることだ。現在は、オリンピック金メダリストや宇宙飛行士やニュースキャスターなど、著名人ばかりが選ばれる傾向にある。それ自体が悪いのでなく、有名でなくても有能な女性はたくさんいるということを知るべき。
もう一つは、有能な女性が既に企業の執行役員・部長となっているので、彼女たちに他の会社の社外取締役になってもらうこと。そうすれば、候補者が増える。

 

フラン:アメリカでも取締役会に頭が固い役員がいて、女性を選ぶ時の基準を厳しくしている。高くし過ぎて彼ら自身も基準に満たないほど。もっと本当に必要な金融、サイバーセキュリティ、マーケティングなどの専門家の女性を積極的に登用すべき。

海部:成功とかリーダーシップの定義も変える時。女性はシャイであってはいけない、アドバンテージは利用するべきというアドバイスがあったが、日本では出る杭は打たれる。女性は特にそう。

 

ケイティ:私も25歳の時はとてもシャイだった。でも、小さいけれど大胆な一歩を踏み出してきた。毎回、少し背伸びをして、いつもとちょっと違うことをした。それがうまくいくと、自信を持って次に踏み出せる。コンフォートゾーンから出て、とにかく挑戦してみることだ。

 

フラン:自信を持つことは大事だが、それだけでなく、お互い助け合うことも大事。一つ例を挙げると、ある役員会に出ていた時、財務担当のトップである女性がプレゼンで売上が計画より5パーセント少なかったと謝った。その後出てきた彼女の部下の男性は15パーセント少なかったが、それについて何も言わなかった。終了後、私は彼女に「もう謝っては駄目」とアドバイスした。コーチングし合うことも必要。

 

江川:自信を持って自分自身でいること。自分のリーダーシップスタイルを確立すること。
若い人たちに言いたいのは、昇進した女性はアファーマティブアクションだと言われるのを恐れてはいけないということ。男性は入社した時には全体の70から80パーセントなのに、管理職で男性が占める割合は94パーセント。人数に比べて昇進の機会が多く、実質的にアファーマティブアクションになっている。女性は遠慮することはない。

 

海部:成功やリーダーシップの定義を見直すことについて。女性ならではのリーダーシップは。

 

ケイティ: 女性ならではとは言わないが、ヨーロッパではここ20年ほどリーダーシップの定義が変わってきている。今まではトップダウンだったが、現在は関わり方、動機付け、コミュニケーション、繋がりなど、女性の得意分野が増えた。私が関わるHRでも、今までは男性に偏り過ぎていたのが、最近は女性に偏り過ぎるという問題が起きている。
リーダーシップとは人についてきてもらうこと。そのためにはついてくる人たちが何をしたいか理解することが大事。

 

江川:リーダーシップとは従う人たちの立場で考えること。人についてきてもらうには、その人たちの声を聴く必要がある。

 

Q & A

 

海部:カリフォルニアでも女性役員を増やすためにクォータを設定する必要があるのか。

 

フラン:カリフォルニアでは最近、株式を公開している会社は最低一人女性役員を置かなくてはならないという法律ができた。数年のうちにはその数が増えていく。クォータ制を嫌う人もいるが、変化があまりにも遅いので、良い政策だと思う。

 

海部:ケイティはワークライフバランスをうまく保っているように見えるが、どうやっているのか。

 

ケイティ:よく聞かれることだが、別にスーパーウーマンなわけではなく、夫の素晴らしいサポートがあるから。良いパートナーを選ぶことは大事。結婚当初、ここまでやってくれるとは思っていなかったが。
子どもができた時、半分はあなたの責任と夫に言ったところ、反対しなかった。そして、5歳以下の息子が3人いて4人目を妊娠していた時、転勤を伴う大きな昇進をした。当時は二人ともフルタイムで働いていたが、息子の一人に障害があることが判明したこともあり、夫は専業主夫になった。誰にでも勧められることではないが、私の場合は、夫のお陰でここまで来れた。

 

海部:日本の政治家や経営陣はあまり魅力的に見えないから若い女性がなりたがらないのでは。

 

江川:学生たちに聞くとロールモデルになるような大人がいないと言う。若者に夢を与えられない社会は問題。長時間労働のせいで男性も女性も犠牲にしているものが多い。本当にこの問題は解決しなければいけない。

 

フラン:アメリカの中間選挙ではたくさんの女性が当選した。良いこと。長時間労働について言えば、シリコンバレーのベンチャー企業は長時間労働で知られるが、実際は違う。熱意があるから長時間働くだけ。それに、私がたくさんのベンチャーに関わってきたのは、その方がフレキシブルに働けて、家族との時間を作れたから。

 

海部:確かにそれはわかる。一橋の女性が自営が多いのもそれが理由だと思う。
女性のメンターをしていて、企業の価値観と合わない時はどうしているか。

 

ケイティ:私は以前、アメリカ企業で働いていたが、アメリカ企業は近年女性の登用に積極的。障害はトップより、中間管理職。たとえば、女性社員がネットワーキングイベントに行きたいと言った時、女性の上司でも時間の無駄だ、そんなことをしている余裕はないと言う人がいる。対抗策として、イベントにCEOやCFOを招待している。そうすれば、トップが出席するイベントに行くなとは言えなくなる。

 

海部:ネットワーキングということが強調されたが、どうか若い方は私たち年寄りをどんどん利用してほしい。叩かれるのが私たちの役目なので、目立って叩かれそうだと思うことはどんどん私たちに相談してほしい。また、本日は託児サービスを提供したが、12人の利用があった(注:事前申込が子どもの数で12、実際の利用は11名)。こういったことをエルメス会でやってきて、参加できないと思っていた人もできるようになったので、是非こういった試みを色々な場で広げて欲しい。

​<前編>

​<後編>

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クロージング・リマークス
クリスティーナ・アメージャン(Christina Ahmadjian, 一橋大学大学院経営管理研究科教授)

 

【抄録】
この会議の開催をサポートしてくださった野村財団、如水会、株式会社未来酒店、

株式会社両口屋是清、MAHOROBA、そして実行委員の皆さんに感謝する。

 

とても興味深く日本とは別な視点をくださった海外からのパネリストのフランと

ケイティ、そしてプレゼンテーションをしてくださった方々に感謝する。

 

智慧、リーダーシップ、ブレークスルーという3つのキーワードの中で、ブレーク

スルーにフォーカスしたい。これが今最も必要だからだ。この会議でも見られた

ように智慧はたくさんあるし、リーダーシップも本当にたくさんある。

必要なのはブレークスルー。

 

変化は起こっているし、努力もされている。変化が必要だという機運もある。でもブレークスルーがない。ブレークスルーするためには壊すことが必要だ。自分自身を、コンフォートゾーンを、システムを、社会を壊さなければならない。それは自分にとっても他の人たちにとっても居心地の良いものではない。居心地の良くない、大変なことをしなければならないのだ。間違ったことをしていると言われるかもしれないし、ルールを破っている、不適切なことをしている、社会を痛めつけていると言われるかもしれない。それでもブレークスルーしなければいけない。今こそ、どうやってやるべきか考える時だ。

 

この会議で出たアドバイスは素晴らしい。自分自身でいるべきというのは大切なことだが、他の人と違っているということも大切だ。社会を変革する時、私たちは周りの人や社会と違っていなければならず、違っていることに違和感を覚えていてはいけない。
自分自身でいる、でも他人とは違う自分で。ブレークスルーするために周りを苛立たせてもいい、社会を変えてより良いものにするために。エルメス会が、その智慧とリーダーシップで、新しい、より良い、もっと素晴らしい社会に向かってブレークスルーするのを楽しみにしている。
(了)
 

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